2005年06月05日

墨流とは(7) 非戦−A

前回、墨子の説く非戦の考えの本質は、相手を根こそぎ簒奪してしまう侵略を許さないこと、つまり「非侵略」にあると述べました。

そして、中小企業の経営においては、非戦を重視すべきこと。即ち食うか食われるかの侵略戦争はすべきではないと述べました。

ところで、資本主義市場経済のもとでは、企業は常に競争にさらされています。さらに言えば、競争を通して市場に対してよりよい商品やサービスを提供することが期待されています。

競争に勝った企業は、顧客を獲得し市場シェアを拡大していきます。一方負けた企業は、顧客を失い、ついには市場からの退場を余儀なくされる場合も稀ではありません。

このような厳しい市場で生き残っていくためには、「非戦」など奇麗ごとに過ぎないのでしょうか?

そうではありません。

墨子においては、各国はそれぞれ豊かになるために一生懸命に努力し、工夫することが奨励されます。
いわば、富を簒奪するのではなく、富を創造し繁栄を呼び込む努力をすべきとされています。

これを経営に引き当ててみれば、企業は創意工夫をこらし差別化を図り、(他社の顧客を奪うのではなく)自社の顧客を守り・育て・創造するべきであるという主張だと解釈できます。

例えば、出店地域、対象顧客セグメント、製品構成、ビジネスモデル、得意技術などで競争相手と差別化をする。
その差別化要素をコアコンピタンスとして他社が容易にまねのできないレベルにまで研ぎ澄ます。
その結果として、顧客との強固な関係を築いたり地域において強い支持を得て、容易には新規の競争者との競争には負けない強い事業に育て上げる。

こういうことを目標にすることが「非戦」の経営戦略的な意味合いなのです。

もちろん、消費者や企業が購入する製品・資材には限度がありますから、顧客を創造していくといっても結局は他社への需要を喰ってしまうことになります。

しかしそれはそれで健全な市場経済のありかたなのです。

最初から戦略目標として、同じ業種の競合他社と同じようなやり方で体力消耗戦的な価格競争や宣伝競争を繰り広げてシェアを奪い、競争相手を市場から追い落とすというやり方すなわち「侵略」と「非戦」では、結果として得られる成果が全く異なるのです。

低価格競争で奪い合ったお客は、相手が蹴落とされた後も決して価格アップを受け入れようとはしないでしょう。そこを無理やり値上げしようとすると、すかさず低価格を売り物にした新たな挑戦者が新規参入してくる隙を作ってしまいます。

いわば、市場が荒れてしまったのです。

大企業で例をあげましょう。
最近言われるのが、自動車の好調、電機の苦難です。
この両産業は、一時期日本の輸出を支える両雄とも言われましたが、昨今はその業績にずいぶんと開きが生じてきました。

日本の自動車産業は、世界の市場で「日本車は低燃費、高信頼性」という評価を確立し、多くのファンを得て今や日本の製造業を代表する産業に成長しました。
この評価を確立していく過程で、相手国の自動車産業を破壊するような低価格攻勢などはとらず、米国車、欧州車との差別化に注力してきたことが、現在の地位につながっています。
いわば「非戦」を実践して現在の強さと良好な市場を手に入れたわけです。

一方の電機産業とくにエレクトロニクスでは、ソニーやパナソニックという強いブランドはあるものの、利益体質は不安定で、最近では韓国、台湾、中国などのメーカに足元を脅かされ始めています。特に、韓国のサムスンとの競争では後塵を拝することも多くなっています。

電機産業は、一時期総合志向で、各社がDRAMに代表される半導体から家電、コンピュータまで似たような製品群をもち、他社が製品化すればすかさずその対抗製品を開発し、世界市場で激烈な価格競争を繰り広げてきました。
その結果、欧米でいくつもの電機メーカが姿を消していきました。
今、韓国、台湾、中国の電機メーカがかつての日本のメーカのようなバイタリティで価格攻勢をかけてきています。
安売りを売り物にする家電量販店は、メーカの疲弊を尻目に、トップのヤマダ電機が年商一兆円を突破するまでにいたりました。

日本のメーカは市場を作ったともいえますが、荒らしてしまったともいえるのです。


このように、差別化をめざし、コアコンピタンスを磨いた競争の結果生じた優勝劣敗では、勝者は市場からの強い支持を勝ち取ることができるのです。

反対に市場を荒らしてしまっては、限られた事業領域で生きる中小企業は生きてはいけません。
「非戦」を目指すことの重要性はここにあるのです。








posted by 利アップ at 14:10| Comment(13) | TrackBack(1) | 墨流とは | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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