とんでもない昔であるうえに、墨子の考え方やその実践主義が専制君主にとっては危険な思想であるとして、秦の始皇帝が統一帝国を打ち立てたるとともに徹底的に弾圧排斥されたことから、資料も断片的にしか残っていません。
そのような断片的な資料で語られているのは、思想体系というより、説話の形をとったいくつかの命題といった方が適切です。
主なものをあげると以下のような命題です。
●兼愛・・・博愛、平等主義
「天下の利」は平等からうまれ、「天下の損」は差別から生じる
●非戦・・・専守防衛
他国への侵略を行わず、他国からの侵略には断固抵抗する
●尚賢・・・人材の登用
身分にこだわらず、優れた人材は評価し登用する
●節葬・・・虚礼の廃止
儒家が主張した葬祭を中心とした極端な儀礼に反対
●非楽・・・享楽の節制
君主、施政者が音楽にふけり、政務を省みないことを批難
●非命・・・宿命論を排す
運命論、宿命論にとらわれることなく、努力で道を拓く
何だ、こんなことかと思われたかもしれません。
また、アンチテーゼ的な言い回しが多いために、何となく評論家的なイメージさえ持たれるかもしれません。
ところが墨子の一門のすごいところは、これらの命題を愚直なまでに率先垂範し実践するところにあります。
企業の運営においても、こうするべきだと判っていてもなかなか実行できないことが少なからずあると思います。
「長いものには巻かれろ」「知に働けば角がたつ」「和を以って尊しとなす」などと自らに言い訳をして、改善に取り組めないことが多いのではないでしょうか?
「率先垂範による実践」・・・この一点が墨子の最大の強みなのです。
次回からは前述の6つの命題について少し詳しくみていきます。